風真考(要約)

※風真考(https://nananananigashitai.hateblo.jp/entry/2022/04/04/223000 )を10分の1程度にまとめた要約です。


【序.風真玲太を考える】
 『ときめきメモリアル Girl's Side 4th Heart 』のメインキャラクターである風真玲太は、主人公(プレイヤーキャラ)と幼稚園時代に出会い、イギリスへの引っ越しで離れ離れになってからようやく再会できた高校1年生までの約10年間、主人公と一緒に過ごした思い出や恋心、願い事を抱え続けたキャラクターである。プロローグから主人公に対する好意が明確に示されている点においても異彩を放っているが、キャラクター性を「モラハラ」「ヤンデレ」と評するプレイヤーも少なくない。本記事はゲーム本編の描写に基づきながら風真を生み出した制作陣の意図や、恋愛シミュレーションゲームの攻略キャラクターとしての問題点などを考察していくものである。


【1.変わらないのは誰?何?】
 1章では考察の前段階として、プレイヤーが風真を攻略することで到達する告白エンディングの返答直前に「変わらなくおまえが好きだ」と述べていることから、風真の核でありもっとも伝えたいことは「昔も今も主人公が変わらず好き」であると主張した。しかし、風真の想いの一途さを印象付けるにあたり、本作ではスチルイベントで「風真は昔も今も変わらない主人公が好きである」ことを説明している。この時、“変わらない”ものは「風真(の思い)」から「主人公(自身)」にすり替わっており、本来告白で伝えたかったはずの重点がぶれていることを指摘した。また、特定のスチルイベントを経た風真は真告白エンディングで「思い出と今がぴったり重なる」と過去との不変性を強調することから、風真が重きを置いているのは過去の主人公の姿であり、変化より不変を求めていると考えた。


【2.変わる/変わらない“おまえ”らしさ】
 2章では風真がテキスト中で言及する「主人公らしさ」が「過去と現在の性格的な共通項」であるか、「今後も変わらない本質」であるか検討した。風真が指し示す「おまえらしさ」は、園児や小学生のような幼さや一生懸命取り組む姿勢について主に述べていると考えられる。無論、風真自身が理解しているように人間は成長、変化していく生き物であり、過去や今好きな部分が今後も不変である保証はない。一方で風真は特定の選択肢において、改修などが行われた城や刀も「本物に変わりない」という考えを示している表現から、主人公にたとえ変わった部分があったとしても本質は失われないことを示唆していると捉えた。これらのことから、風真の認識上では「おまえらしさ」は主人公の本質的な部分であると想像できる。
 しかし、個人の本質は他人からは捉えがたいものである。さらに風真が昔出会った主人公の姿と今の主人公の姿を比較して「思い出と今がぴったり重なる」と内心一喜一憂している限り、判断基準が過去にもとづいていることは明白だ。主人公の本質を見つめていると捉えるには、風真に関する描写は過去を強調しすぎていると言える。


【3.風真の見つめる“今”とは?】
 3章では、ホタルの住処におけるデート選択肢の返答の一つ「いつも今が一番いい」という台詞から、風真は本来「主人公と共に在る今を大事にしている」キャラクターだった可能性を提示した。そのうえで、過去を持ち出すことが多い風真が見つめる“今”や“変化”の正体を仕事関係の描写やパラメータ要素から探った。
 風真が高水準のパラメータ条件を求めてくるのは、「昔から主人公が好き」という前提を考えると理不尽で、ありのままの主人公を好きでいるとは言い難い。仮に風真が努力する主人公に好感を抱いているのだとしても、「魅力以外の全パラメータ150以上」になるほどの頑張りしか受け入れないのは不可解である。風真が骨董品に対する価値観をそのまま主人公に適用している場面は作中でたびたび描かれているが、それはつまり過去に見抜いた主人公の潜在的な価値を主人公自身が理解して、能力を磨くことを期待しているということではないだろうか。その結果が他キャラと境遇の異なる風真の「パラ萌え」ではないか。それと同時に、己の真価を発揮するための努力を怠り、自分自身の価値に低い値段をつけている現在の主人公に対して厳しく、好感を持たない(=パラ萌えをしない)可能性がある。
 風真は「過去の思い出に基づく不変」も、「過去に見出した主人公の価値に基づく変化」も求めており、過去への回帰と同時に未来に対する期待を主人公へ向けている。不変と変化、過去と未来をないまぜにした理想像を“現在の主人公”に求めるのは、「今が一番いい」と述べる男の姿勢としてふさわしくない。


【4.ときメモの特徴と主人公の位置づけ】
 本章では『ときめきメモリアル』が有していた特徴について再考した。ときメモは体験性を重視するシミュレーションゲームに位置付けられている。シミュレーションゲームは基本的に、作り手がイベントや選択肢を用意し、プレイヤーが主人公の行動を選択することで物語が紡がれていく構造を有する。イベントの発生時期や順序、プレイヤーの行動選択次第で作り手が想定していない物語が作り出されるのがときメモの特徴だ。
 また、GS4までEVS(簡易版を含む)が残されていることから、プレイヤーが主人公に自分の名前を付けたりオリジナルの名前を付けたりして遊ぶことが可能となっている。この点も踏まえつつ、物語の過程をプレイヤーの操作に委ねる構造を加味すると、主人公はプレイヤーごと、周回ごとにまったく別人であり、3年間の高校生活を経て中身がまるきり異なる人間になると言える。過去作における『ときメモ』は、プレイヤーという役割を通して「主人公=プレイヤー=あなた」とする構造が根底にあったと考えられる。
 主人公と「あなた」が似て非なる人格を有していようとも、プレイヤーの役割を担う「あなた」は、物語の過程で行動選択をすることで物語に影響を与え、主人公(の一部)として作中に存在する。ときメモは告白エンディングという結果のみを見るならば数値的な条件さえ満たせば攻略キャラと結ばれるゲームだが、プレイヤーがたどってきた過程は“私だけが体験できた高校3年間”であり、独自性がある。プレイヤーの行動選択で攻略キャラに変化が生じ、物語が展開する特有のゲーム性は「攻略キャラと主人公の恋」をプレイヤーに体験させ、ゲームを遊んだ人間に没入感ややりがいを味わわせることができる魅力的な恋愛ゲームを作り出していた。


【5.風真と主人公、そしてプレイヤー】
 本章ではときメモの特徴を踏まえた上で風真の造形について考えた。風真が告白エンディングで伝える主人公を好きになった理由は、制作陣が用意した「設定」や、作中描写によって固定化・統一化された「主人公らしさ」に基づく。風真が計5種類の告白エンドで重きを置いて語るのは過去であり、GS4で時間をかけてプレイヤーが体験してきた高校3年間(現在)ではない。主人公は本来プレイヤーや周回の数だけ存在するが、GS4の主人公像は作り手や作中のテキストによって固定化されている印象が強い。異なる過程をたどることで各プレイヤーのもとで紡ぎ出された「主人公らしさ」より、作中描写によって似たような性格に収束する「主人公らしさ」が優先されている。風真と主人公の恋は作り手が用意したアドベンチャー要素(設定やスチルイベント)で成立しており、各プレイヤーがシミュレーション要素による行動選択で作り出した独自性はないがしろにされている。
 風真の物語はときメモにおいて特徴的だった「主人公=プレイヤー=あなた」の図式が崩壊しており、主人公はプレイヤーキャラとして正常に機能していない。本来密接であるはずの主人公とプレイヤーは、主人公の極端な鈍感さや風真の心中描写(プロローグ)によって切り離され、プレイヤーがどのような行動を取ろうとも主人公像は作り手によって固定化される。そしてパラメータ条件と好感度さえ満たしていれば、風真は「昔も今も変わらない主人公」に「昔も今も変わらずに好き」だと告白することになる。GS4が公式サイトで明示していたはずの「『はばたき学園』の高校生」の“あなた”は作中に存在せず、プレイヤーの行動選択は風真にほとんど影響を与えない。風真の恋は行動選択をプレイヤーに委ねる過去のときメモの構造を踏襲している割に機械的で画一的であり、体験性を重視するシミュレーションゲームとして致命的な欠陥を抱えている。


【結.『こうだったらいいのにな』】
 風真が主人公に対してもプレイヤーに対しても押しつけがましいキャラクターに仕上がったのは、「ぴったり重なるんだ、思い出と今が」を代表とする固定化・統一化、作り手の意図する主人公像への収束が原因と考える。結論に代わり、最後に個人的に「こうだったらな……」と思う風真像や主人公像を挙げた。
 風真の「主人公の変わらない部分が好きである」という要素をキャラクターに盛り込みつつ主人公の設定をプレイヤーに押し付けすぎないようにするならば、「変化・成長し続ける姿が変わらない」とするか、「全プレイヤーが持ち合わせる性質(能動性)」を盛り込むべきではないか。成長し変わりゆく主人公の姿勢や、ありとあらゆる成長(特定のパラメータに特化した成長を含む)を遂げる可能性を好ましく思うように設定し、主人公の努力を素直に肯定できるキャラクター像になっていたら、と思わざるを得ない。過去作ではプレイヤーが主人公を操作して攻略キャラに積極的にかかわっていく能動性を「主人公らしさ」に取り入れることで、主人公とプレイヤーの一体感を持たせていた。一方でGS4の主人公は極めて鈍感で無条件で好かれるような人物像のため、積極的な行動に主人公の自覚的な感情が伴わない。
 また、主人公のパラメータが示す「あらゆる姿に成長する可能性」は、全プレイヤーに共通する主人公の“本質”になりえると考える。風真が目利きの才能を持っているというのなら、『魅力以外150以上』のみを条件にせず、変化や成長する主人公の可能性を見抜いていたことを前提にさまざまな可能性(パラメータ)にたどり着いた主人公に物語終盤で言及する仕様を備えたら良かったと思う。主人公のみならずプレイヤーに対しても好意を伝えるようなキャラに仕上がっていたら、ときメモGSシリーズ再誕作にふさわしい王子になっていたかもしれない。
 なぜ風真が自分の意に沿わない主人公の変化に寛容的ではないキャラに仕上がっているか考えてみると、風真の性格設定が実際に用意された物語の展開とかみ合わないからだ。告白エンディングにおける風真の「昔も今も変わらずにおまえが好き」という主張は、初期設定とみられる「古風な考えを持つ」「天邪鬼」「女の子より優位に立ちたい」設定と組み合わせることで「昔も今も変わらないおまえが好き」に歪められたと推測される。現在の風真の造形は主人公のポテンシャルを「自分と結ばれる理想の主人公像」に収束させる言動で構成され、幼い頃に見つけた“主人公の可能性”を結果的に狭めている。不機嫌さを露骨に表に現さず、あらゆる主人公の姿(可能性)を肯定したり、過去を振り返ってばかりだった風真が現在の主人公にしっかりと目を向けたりするまでの過程がイベントや台詞を通じて描かれていれば、風真はもっと多くの人に愛されるキャラクターになれたのではないだろうか。